平成19年 9月
    「胃集団検診におけるレポート記載の実際」
                                
 社会保険北海道健康管理センター 高橋伸之
  はじめに
創刊号では上部消化管の一般的な読影レポートの記載法、第2号では集団検診における、技師によるレポートのあ
り方についてと、当施設におけるレポート記載の現状を紹介した。今号では、さらに具体的に記載例を提示し、時間
に制約される集団検診であっても、現状で必要不可欠と考える記載事項を以下に示す。

レポートに記載する内容
主にスケッチにより示す。(部位、病変の形態、良悪性に関するもの)

良悪性に関するレベルの判断基準を以下に示す。
・レベル0 悪性を疑わない
・レベル1 悪性を否定し得ないが、良性を考える
・レベル2 良悪性の判断がつかない
・レベル3 悪性を強く疑う
・レベル4 X線写真上、悪性と判断する
記載例
症例1

結果:読影結果は、要精密検査であったが、受診しなかった。

症例2

結果:癌(tub1)、深達度m。EMR施行。

症例3

結果:読影結果は異常なし。

症例4


結果:精密検査結果は胃炎。
見直し検討:X線写真では、隆起+陥凹と読むしかないと思われる。しかも、陥凹の形が不整なので、レベル3としたことは妥当と考える。

症例5

結果:読影結果は、要精密検査であったが、受診しなかった。

症例6

結果:精密検査結果は、潰瘍瘢痕。
見直し検討:結果が潰瘍瘢痕ということで、一応納得できるが、改めて見直すと大彎側のヒダ先に途絶と見られる所見が複数見られ、ヒダ先の切れた辺りから病変が広がる面を持った病変と読むこともできる。透視中には、そこまで読めなかったようだ。あらためて読み返すとレベル2が妥当な症例と思われる。

症例7

結果:精密検査結果は、内視鏡では、未分化型癌を疑い二度検査したが、生検結果はリンパ球の増殖が目立つだけであった。
見直し検討:ヒダの中断を見て、強く悪性を疑ったようだったが、レベル3とするほどの所見ではないようにも思う。病変が小さいため、レベルを高めに設定したのかもしれない。

症例8

結果:精密検査結果は、潰瘍瘢痕。
見直し検討:陥凹の形が星芒状。陥凹辺縁にしみ出し所見を見て、分化型癌を疑ったものと思われるが、良悪性の判断がむずかしい症例である。レベル2とした場合、精密検査受診率が大幅に下がる現状を考慮し、レベル2と3で迷ったときに、レベル3をつけるのはやむを得ないものと考える。

症例9



結果:0-Ⅱc, 印環細胞癌( sig>por1>por2), sci, INFα, sm3, ly0, v0, n0

おわりに
検診の第一目的は病変の拾い上げにあると考えている。病変が存在するか否か。これが一番重要である。「透視中に見逃したものは、読影時にも見逃される」このことを肝に銘じ、病変発見に全力を傾けて欲しい。そういった意味では、読影医にとって病変の有無を判断しやすい画像と、レポートの提供があれば、まずは及第点と言えるであろう。
しかし、精検受診率は僅かながらも低下傾向にあり、平成16年度日本消化器がん検診学会全国集計によると、地域検診では約80%、当施設において受診者の大部分を占めている職域検診にいたっては約52%となっている。
精検受診率の向上に向け、各施設において、それなりの努力はしていると思われる。しかし、画一的な受診勧奨だけでは受診率の向上は、むずかしい現状にある。
そこで、がんの疑いが強い所見を選別し、該当者には手厚い受診勧奨を行い、低い精検受診率を補うことが必要だと考える。実際に当施設では、癌の疑いが強いグループの精検受診率は、毎年約90%であり、それ以外のグループは約50%と明らかに差が見られる。
つまり、当施設では病変の有無がわかるだけの写真では不十分であり、がんを疑えるか否かの判断が可能な、病変の辺縁性状、表面性状を描出した写真が求められるのである。
このように読影医に対し、質的診断がしやすい画像と、それについてのレポートの提出が検診においても不可欠と考え、記載例にもその旨を示したつもりである。レポートの効果については、前号、前々号をもう一度読み返していただきたい。
レポートを始めるにいたっては、先ずやれるところから始めること。そして、導入後に、よりよいレポートへと改善の努力を重ね、それぞれの施設で最適なレポートへ近づけることを心がけていただきたい。
検診の目的と意義をいま一度確認し、労を惜しむこと無く、最終的には撮影とレポートから検診結果、受診勧奨までを含めた総合的なシステム作りを目指して、努力を重ねていただきたい。