平成19年 8月
       「国民の期待を裏切ってはいけない」
                                
 社会保険北海道健康管理センター 高橋伸之
今手元に平成16年度胃集団検診全国集計がある。地域検診・職域検診・直接・間接すべて合計した成績は要精検率9.60%、がん発見率0.10%である。この成績は毎年さほど変動していないと記憶している。成績の良し悪しは、他の機会に論じることとして、この成績が意味するところを考えてみたい。説明することは蛇足かもしれないが、自分の考えを整理するため説明させていただく。
この成績は、1000人検診を受けると、そのうち96人が精密検査の判定となり、一人の癌が発見されることを表している。胃癌検診に絞って考えると、もし、一人も癌になる人がいなければ、誰も検診を受けなくても済むことになる。くどいようだが、実際には誰かが癌にかかり、早期治療しなければ死が訪れる。それは自分かもしれないということで検診を受けている。つまりは、癌に罹患していない残りの999人は、その癌患者のため、受けたくもない検診に付き合っているということだろう。しかも、そのうち95人は、おまえは癌かもしれないと脅され、更に内視鏡検査も付き合わされている。時間とお金をかけて、苦痛にも耐えてである。ここまで付き合わされて、肝心要の癌を見逃されては「胃癌検診のために多額の税金を無駄使いさせるな」と大声で叫びたくなるであろう。
検診で癌を見逃すことは見逃された受診者とその家族を不幸のどん底に落とすだけではなく、その一人の胃癌を早期発見してもらうために検診に付き合っている他の受診者への裏切りでもあることを忘れてはならない。
撮影された写真が拙いために癌を拾い上げることができなかったなどということは、どれだけ罪深いことであろうか。このことを今一度真剣に考えていただきたいと心から願っている。ただ、本当に呼びかけたい相手は、この研究会に積極的に参加している尊敬すべき読者ではなく、この研究会に全く見向きもしない医療人の誇りのかけらもない者たちであるということが、何という皮肉であろうか。最後までこの巻頭言を読まれた読者に感謝の意を表しつつ、呼びかけの言葉で締めくくりたい。

"皆さん、人間嫌いでは医療人失格です。愛ですよ、愛。"