平成18年 10月
「技師によるレポートのあり方」(胃集団検診について) 
                               社会保険北海道健康管理センター   高橋伸之
■はじめに
当施設では、毎年約25,000人の方が、巡回検診にて消化管造影検査を受診している。当施設の検診対象エリアは北海道全域及び青森県という広い範囲に及ぶため、検診出張は宿泊を伴うことが多い。週の初めに札幌を出発し、週末に戻るという日程が多く、そのため、画像データは、施設に戻ってから一週間分まとめて処理することになる。翌週に医師読影がおこなわれ、その後検診結果が出るという流れとなる。
このような検診環境において、現在我々の施設で取り組んでいる巡回検診レポートについて紹介する。

■レポート記載に際してのポイント
本来であれば、巡回検診であっても、施設検診と同様、気になった所見の形態等を詳細に記載すべきであると考えるが、膨大な件数に対して、詳細なレポートを書くことは、時間的にとても困難な状況にあり、極めて簡素化しなければ、当施設をはじめ、その他多くの施設においてもレポート記載は実行されないと考えている。
当施設におけるレポートは、撮影中に書く透視観察レポートのみである。
その記載内容を以下に示す。
1.適切な追加撮影をもってシェーマの代わりとする。
2.部位。
3.大まかな所見または診断名。
4.悪性を疑うか否か。

以上の項目のみであるが、特に重視しているのは、追加撮影と良悪性に関する記載である。良悪性の判断にこだわる理由としては、がん発見が検診最大の命題であり、そのことに対する自分の考えを曖昧にしないことが重要だと考えるからである。記載に際しては、当然その根拠を透視画像に求めることとなるため、読影医と同じ視点で画像の良し悪しを判断することに繋がるはずである。

良悪性に関する記載方法を以下に示す。
・レベル0 悪性を疑わない
・レベル1 悪性を否定し得ないが、良性を考える
・レベル2 良悪性の判断がつかない
・レベル3 悪性を強く疑う
・レベル4 X線写真上、悪性と判断する

■レポート記載例

■レポートの評価
レポートに記載しているレベルと精密検査結果を照合し、様々な評価基準を検討しているところであるが、その例を以下に示す。尚、評価対象としたものは、平成14年度から平成16年度までの3年間で、巡回のみではなく、施設検診と合わせたものである。
1.レベルの整合性評価
以下のグラフは、発見胃癌に対して各撮影者が設定したレベルの整合性を評価したものである。レベル3,4としたものを強く癌を疑う危険群とした。
成績が高いものは、90%を危険群としてレポート記載していたが、成績の低いものは、50%しか危険群として記載していなかった。

2.レベル設定と発見癌を基にした点数評価

発見時点数表 前回分点数表表
・前回指摘なしm癌(L3.4) 4
・前回指摘なしm癌(L1.2) 3
・前回指摘なしsm癌(L3.4) 3
・前回指摘なしsm癌(L1.2) 2
・前回(L1.2)=早期癌(L3.4) 2
・前回(L3.4)=早期癌(L3.4) 1
・前回(L1,2)=早期癌(L1,2) 1
・前回指摘なし進行癌(L3.4) 2
・前回指摘なし進行癌(L1.2) 1
・昨年度指摘あり進行癌(L3.4) 1
・昨年度指摘あり進行癌(L1.2) 0
・他部位指摘 0
・撮影時見逃し早期癌 -1
・撮影時見逃し進行癌MP、SS -2
・撮影時見逃し進行癌S -4
・食道M癌(L3,4) 5
・食道M癌(L1,2) 4
・食道SM癌(L3,4) 4
・食道SM癌(L1,2) 3
・食道M、SM癌(昨年チェック) 1
・食道進行癌(L3,4) 2
・食道進行癌(L1,2) 1
・食道進行癌(昨年チェック) 0
・チェック(L3.4)早期癌 2
・チェック(L1.2)早期癌 1
・チェック(L3.4)進行癌 1
・チェック(L1.2)SSまで 0
・チェック(L1.2)S -1
・ノーチェック早期癌 -1
・ノーチェック進行癌MP、SS -2
・ノーチェック進行癌S -4
・チェック食道M癌 4
・チェック食道SM癌 3
・チェック食道進行癌 1
・ノ-チェック食道癌 0
・初回は前回指摘なしと同様に扱う ・前回が2年以上前であれば、マイナス評価は除外する。
・他部位指摘の場合は、評価対象外とする。

上記の表を使用し、発見した各癌症例に対し、発見時及び前回撮影者に対し点数付けを行い、各技師を評価した。結果は以下のグラフのとおりである。レベルの整合性の評価とは、必ずしも一致した評価とはならなかった。


■レポート記載における波及効果
読影力の向上
以下のグラフは発見胃癌におけるレベルの内訳である。レベル導入当初の平成5年度では、発見胃癌のうち悪性を強く疑うレベル3、4の占める割合は56%であったが、平成12年度では65%であり、平成15年度では85%であった。良悪性を判断する読影力が技師全体として向上したと判断できる。


レベルを高く設定したが癌ではなかった例や、レベルを低く設定したが癌だった例について、反省と見直しを繰り返したことが、技師全体の読影力向上に繋がったと考えている。しかし、先に示しているとおり、個々の評価では、個人差が大きく、さらなる研鑽が必要と考えている。

■現状の問題点
透視観察レポートだけでは、撮影像における画質の評価、描出能の評価には繋がらない。医師読影に立ち会うことである程度補っているが、癌症例以外の日常行っている撮影法を評価する体制を整えるためには、やはり、各撮影者が撮影像をチェックし読影レポートを記載することが必要と考える。しかし、施設に戻り読影レポート記載するためには、現スタッフでは、勤務時間を延長する以外にない。施設として、技師レポートの作成は、当然必要と認めているが、そのための人的体制づくりまでは考えていないので、現状での読影レポート作成は、過重労働やサービス残業に繋がり、継続して行うことは難しい。問題解決のためには、技師によるレポート記載が不可欠であり、精度向上に繋がることを実証し、医師、施設、社会に認めてもらうより他にないと考えている。

■おわりに
以上、当施設での取り組みを紹介したが、点数表については、評価がより正当なものになるように更なる検討を加え、個々の向上心が高まるように改善したい。また、技師レポートが精度向上には不可欠との社会的認識を得られるよう、研鑽を重ねるとともに、広報にも取り組んでいきたい。