平成17年 11月
      「読影レポートの書き方」(特に上部消化管について)
                                 社会保険北海道健康管理センター 高橋伸之
読影レポートの書き方について、説明する。
読影レポートを書く場合、特に推奨したいのは、シェーマを添えることである。キーフィルムを提示するだけでよいと思われるかもしれないが、同じ写真を見ても、所見の捉え方は個人個人で違ってくる。(図.1参照) 撮影する私達が自らの意見を伝えるのが、レポートであるから、キーフィルムに映っている像をどのように捉えているか伝えるためには、シェーマを描きレポートに添えることが最も適していると考える。もし、第三者がそのシェーマと実際の写真が結びつかないとしたなら、それは写真の病変描出能が十分ではないということであるから、撮影法等の反省をしなければならない。大阪消化管撮影技術研究会から出されている「実践 上部消化管造影臨床画像評価法」を読んで参考にしていただきたい。

 図1.シェーマによる、病変範囲の捉え方の相違
                       (資料提供:大阪 サトウ病院 井上啓二氏)

さて、レポートに記載しなければならないことは、シェーマだけではない。記載すべき項目を以下の表にまとめる。
表1 記載すべき項目 
 1 患者(受検者)情報 
病変の・・・ 
 2 有無 
 3  数
 4  部位
 5  隆起か陥凹かそれとも混合か
 6  形
 7  大きさ
 8  高さ・深さ
 9  辺縁の性状
 10  表面の性状
 11  周辺の性状
 12  硬さ(伸縮不良)
 13  読影所見
   .
 14  粘膜描出能の評価
 15  区域描出能の評価

1.患者(受検者)情報
当然のことであるが最も重要なことは、どの患者のレポートであるかを明確にすることである。名前だけではなく、その施設の管理システムに合わせて、いつでも取り出しやすく、間違いの起こらない登録方法を採用していただきたい。

2.病変の有無
健診など一度に多くの読影レポートを提出する場合、有所見例のみ記載している施設もあることと思う。所見の有無にかかわらず記載することで、作業が煩雑になりミスを起こしやすい状況になるのであれば、やむを得ないが、所見が無いと読んだ場合でも、レポートを提出する方がよい。ミスの回避につながることもあり、自らの読影の確認ともなる。

3.病変の数
読影の際には、どうしても、一番目立つ病変に注目しがちである。しかし、病変は一つとは限らない。目立たない病変だからといって、重要でないということはないのである。癌症例の10%程度は多発と言われている。中には、目立つ病変が良性で、あまり目立たない病変が悪性だったということもよく聞く話である。健診において、他部位チェック例をよく耳にするが、目立つ病変に注意が集中し、他がおろそかになったことが十分考えられる。このような例を少なくするためにも、レポートには数の項目が必要だと考える。一つの病変を記載することで満足することなく、全領域について集中力を持続させて、チェックするよう心がけよう。

4.部位
病変がどこにあるのかということは、患者情報の次に重要な項目かもしれない。どの患者で、どの場所をチェックしたかということが記載されていれば、見直しすることもできるし、内視鏡医に注意を促すこともできる。 また、追加撮影を行う際、場所が把握されていなければ、応用が利かず、最適な追加撮影など望むことはできないはずである。今読んでいる写真の中で、注目しているところがどの部位なのか、常に把握できるようにしていただきたい。(図.2)

  図2. 病変の部位
5.隆起か陥凹かそれとも混合か
ここからは、チェックした所見をどう表現するかという項目になる。先ず、隆起か陥凹かそれとも混合かということから記載していく。
・隆起はバリウムをはじく
・陥凹はバリウムが溜まる
以上が基本である。もちろん混合している病変も多いが、比較的大きなほうを優位として、できるだけ隆起か陥凹かに分けたほうが、レポートは記載しやすいと思う。

6.形
隆起か陥凹かの次にはその病変の形を記載する。病変を表現する場合には、第三者が病変をイメージしやすいように、大きな所見から読んでいく。病変の形というのは、良性または悪性をイメージさせる目安となる。
さて、形を表す場合においても、円形、類円形など、表現しやすい形はよいが、形が歪になると、どう表現してよいかわからず、何もかもが不整形と表現してしまっているレポートをよく目にする。これでは、相手にイメージが伝わらない。芋虫状、柊状など自分の見た印象を言葉にするよう心がけよう。ただ、このとき注意しなければいけないことは、共通の言葉を選ぶことである。自分自身には、よくわかる表現でも、一般的に知られていないものをたとえにしては、相手に伝わらないので、注意しなければならない。また、成書には多くの言葉が引用されているので、参考にしていただきたい。以下に例をあげる。
(例:塊状・結節状・カリフラワー状・平皿状・噴火口状・菊花状・星芒状等)

7.大きさ
一般的に病変が大きいほど癌が強く疑われる。また、癌の場合には、大きいほど深部浸潤の可能性も高くなる。そのため、大きさの記載は欠かすことができない。大きさはどのように決めるのか、(図.3)に示す。
 
          図.3 病変の大きさ


高齢者の場合、椎体が潰れてしまっていることがある。その場合、椎体の大きさが変わるので、注意すること。

8.高さ、深さ
病変の形態を把握するため、隆起ならば、高いか低いか。陥凹ならば、深いか浅いかを読まなくてはならない。そのためには、高さ、深さの基準が必要である。隆起性病変の場合、foldの高さ(2~5mm)より高いものを高いと表現し、それ以下のものを低いと表現する。陥凹性病変の場合、潰瘍の深さを表現した村上のUl分類を参考にする。
Ul-Ⅰ・Ul-Ⅱ程度は"浅い"、Ul-Ⅲ・Ul-Ⅳ程度は"深い"ということになる。
では、どのような写真でチェックするかだが、1.側面像でチェックする(図.4、5)。2.バリウム層の厚さを変えた写真でチェックする(図.6)。3.圧迫像でチェックする(図.7)。以上、3点があげられる。それらを照合することができれば、正確さは増すものと考えられる。

図.4 側面像 (資料提供:大阪 サトウ病院 井上啓二氏)

図.5 側面像 (資料提供:大阪 サトウ病院 井上啓二氏)

図.6 バリウム層の厚さ (資料提供:大阪 サトウ病院 井上啓二氏)

軽度圧迫像 強度圧迫像
図.7 圧迫像 (資料提供:大阪 サトウ病院 井上啓二氏)

9.辺縁の性状
辺縁とは、病変と正常粘膜の境界部分を示している。良悪性の鑑別には、最も重要なポイントで、その境界部を正確に読み取ることが必要である。
・隆起性病変:立ち上がりの形状、辺縁がスムースかどうか
立ち上がりとは、正常粘膜からの移行状態を示す。この表現には山田分類を用いる。


図.8 山田分類

・陥凹性病変:辺縁がスムースかどうか。不整な場合、ここでも様々な表現が使われている。(例:鋸歯状、櫛状、柵状、棘状、断崖状、蚕蝕像等)これには、キーフィルムの選択が重要である。陥凹の辺縁は二重造影で薄くバリウムを溜めた写真が変化を読みやすいとされている。(図.9)

図.9 陥凹性病変の辺縁 (資料提供:札幌厚生病院 萩原武氏)

10.表面の性状
病変の表面性状からは、良悪性の鑑別、深達度についての情報が得られる。
・隆起の表面:平滑,顆粒状,結節状,敷石状 等。
・陥凹の表面(内面とも言う):無構造,島状粘膜残存,凹凸不整 等。
陥凹面を正面視した写真で読影しよう。1.陥凹面のアレア構造の有無、2.アレアの性状、3.深い陥凹や隆起の有無などをチェックし、それらの形・大きさ・配列について形態分析が必要である。キーフィルムを選ぶ場合、陥凹のバリウムを抜き去った写真によく描出されている場合が多く、空気は中等量から多量の写真が読影しやすいようである。(図.10)

図.10 陥凹性病変の読影

11.周辺の性状
陥凹性病変の場合、周辺に変化が表れる場合が多々あるので、以下について、チェックすることが必要である。
・converging fold,micro convergence の有無.
・fold の集中形式(single,multiple,linear type)
・fold の性状(接合,太まり,融合)
以上のように、foldの性状を正確に把握することは、良悪性の判定因子だけではなく、癌であれば浸潤の深さを推定する因子としても参考になる。
キーフィルムの選び方としては、薄くバリウムを漂わせた写真がひだの先端の状態をよく描出していることが多いので、そういう写真を特にチェックする。また、空気少量の写真は性状を見誤ることがあるので要注意である。

a:太まり
b:接合
c:先細り
d:micro convergence
図.11 foldの性状 (資料提供:藤田胃腸科病院 本田幹雄氏)
12.硬さ(伸縮不良)
広範囲または局所的な硬さや伸縮不良をチェックすることは、大きな診断ポイントになる。例えば、広範囲に伸展不良がある場合、スキルスを念頭において読影を進めるというのは、一般的であるが(図.12)、その他にも癌とリンパ腫との鑑別、あるいは、癌の浸潤範囲や深達度の判定に用いられる。


図.12 伸展不良症例 (資料提供:埼玉県立がんセンター 腰塚慎二氏)
チェックの方法として(図13,14)
1.強弱を付けた圧迫における抜け像の変化の有無によって、硬さをチェックする
2.病変部の側面像で伸展不良を意味するdefectの有無をチェックする
3.空気量変化に伴う病変部の伸展及び収縮不良をチェックする


aはいもの、bは硬いもの
図.13 空気量変化に伴う病変部の伸展度


図.14 空気量変化による病変の大きさ (資料提供:みどり健康管理センター 板谷充子氏)

13.読影(所見名の記載)
読影所見の記載というと医師の領分で、放射線技師が踏み込んではいけないと考えている方がいると聞いている。確かに、患者や受検者にそのような話をすることは法律違反となるであろう。しかし、レポートに記載したものはあくまでも、撮影者の意見として、読影医に報告するものであり、その取り捨ては読影医の任意であるから、神経質になることはないと考えている。それよりも、自分の考えを曖昧にしないということが読影力、つまりは透視観察力を向上させるために最も重要なことである。結果が自分の考えと同じなら、それでよいし、もし違う結果が返ってきたら、それこそがステップアップの絶好のチャンスである。X線像を内視鏡像や切除標本像と対比して、画像所見の検証をしよう。当然、自分一人では、十分な検証は難しいと思われる。まわりに良き指導者がいないときには、日本消化管画像研究会の世話人がそれぞれの地域にいるので、ぜひ相談していただきたい。それは、この研究会の活動の一環なのだから、まったく遠慮する必要などないのである。

所見の記載で最も重要な項目は、良性か悪性かの判断である。もしも悪性と判断した場合には、悪性の根拠を再確認しなければならない。根拠がはっきりしていないのでは、読影力を疑われ、レポートそのものを軽視されかねない。
次に、悪性とした場合考えなければいけないことは、肉眼型,範囲,深達度,組織型である。慣れないとかなり時間を要するので、普段から症例検討会に参加して、読み方を練習しておくのがよいと思う。
もう一つ、必要なことは、胃の疾患を知ることである。成書を読んで、知識を増やしていただきたい。

14.粘膜描出能の評価
これは胃の粘膜が十分写真に写し出されているかどうかをチェックしようということである。その画像が十分な情報を提供していなければ、確かな読影は望めない。私達撮影を担当する放射線技師が、読影をすることで一番期待されていることは、読影の補佐ではなく、X線像の描出能向上にあるのではないか。画像の描出能を高めなければ、検査精度を引き上げられないのは、当然のことである。撮影する技師が読影医と同じ意識で写真の評価をし、描出能向上の工夫をしていくことは、何よりも重要なことである。読影レポート作成は、絶好の機会である。最大限活用していただきたい。

15.区域描出能の評価
ルーチン検査の場合、胃の粘膜が十分描出しているかどうかという評価と並んで重要なことは、すべての区域が描出されているかどうかという評価である。写し出されていないところは読めないので、病変の見逃しに大きく繋がることになる。この区域描出能と前項の粘膜描出能の評価方法については、「実践 上部消化管造影臨床画像評価法」で詳しく記載されているので、ぜひ参考にしていただきたい。

読影レポートの記載項目は以上である。記載方法については、例えば、マークシート方式や電子保存方式といったように、それぞれの施設に合わせて応用していただきたい。

さて、さらに難しいのは巡回健診である。いくら書き方がわかっていても、膨大な量のため、長続きしないのであれば、何にもならない。当施設でも、レポートを書く人的及び時間的余裕がない現状を踏まえ、以下の方法を平成5年から取り入れている。同様な悩みを持つ施設には、参考になるかもしれない。ご一読いただきたい。

「読影レポートの書き方」(巡回健診)

巡回健診においても、施設外来と同じ内容のレポートを書くべきであるが、膨大な件数に対して、詳細な読影レポートを書くことは、とても無理という施設が圧倒的に多いように思われる。書ける状況にないのであれば、撮影中に書くレポートを以って読影レポートとせざるを得ない。但し、この方法では写真の画質チェックはできないので、現像、フィルム整理、医師読影立会い時などを利用して補足する必要がある。以下に当施設の方法を提示する。

1. 巡回健診の読影には、当番の技師が1名立ち会う。この場合、撮影者が立ち会えるとは限らない。巡回健診では、撮影者が(図.15)に示す読影レポートを提出し、読影を立ち会う技師が読影医に報告する。ご覧のとおり、このレポートは、時間に追われている健診中に記載するため詳細に書くことができない。適切な追加撮影を行い、レポートには部位と簡単な所見を書く程度である。ただ、ひとつ最重要な事柄を書かなければならない。良悪性に対しての記載である。

a.記載例 b.撮影者コメントの拡大
図.15 読影レポート

2. 良悪性に対しての記載にこだわる理由は、職域健診を対象としている施設に共通する精検受診率が低いという問題(現状)を抱えているからである。当施設の精検受診率は50%弱と全国平均をやや下回っている。マンパワー不足で、なかなか思うような受診勧奨を行うことができないでいるが、せめて悪性を強く疑う方たちだけでも、手厚い精検受診勧奨を行い、精検受診していただこうというねらいがある。良悪性の記載方法は表2に示す。

表2 レベルの設定
レベル0 悪性を疑わない
レベル1 悪性を否定し得ないが、良性を考える
レベル2 良悪性の判断がつかない
レベル3 悪性を強く疑う
レベル4 X線写真上、悪性と判断する

レベル3,4が悪性の可能性が高い言わば危険群として読影終了時に保健師に報告する。精密検査対象者における危険群の割合は、毎年2~8%の範囲である(図.16)。


レベル3,4の報告を受けた保健師は(表3)に書かれている内容で、受診勧奨を行う。この手厚い受診勧奨の結果、危険群の精検受診率は毎年90%を超えている。

表3 危険群に対する受診勧奨
1.放射線技師よりケース連絡を受けて保健師がフォロー開始
2.外来は健診当日に面接または電話にて受診勧奨(必ずキーフィルムを提供)
3.巡回は、本人に直接連絡をとって、スムースに受診できるよう手配
4.家族に連絡をとり、受診勧奨を依頼する
5.必要と認めた場合、事業所の健診担当者へ強く受診勧奨を依頼する
 
精検受診率 50% → 90%

3. ここで問題となることは、1.レベルの決定が妥当であるかということと、2.撮影を担当した放射線技師がレベルの決定を担当していることがあげられる。1の問題について、レベル導入当初からの成績の推移を(図.17)に提示する。グラフは各レベルから発見された癌の割合を表す。この図で示すとおり、当施設では、レベル決定の妥当性、つまりは透視観察力が年々向上していると判断している。


また2の問題について、当施設では「透視中に見逃されたものは、読影時にも見逃される」という考え方のもとに、透視中に異常に気づく観察力を持ち、適切な診断ができる撮影を行い、かつレポートに記載することが巡回健診における撮影者の役割と考えている。そのためには、病変を見逃さない観察力と良悪性の鑑別が可能な写真かどうか判断できる読影力、さらに適切な追加撮影を行う撮影技術が求められている。つまり癌の拾い上げには、撮影者の透視観察が不可欠なのである。このような考えに沿って、当施設では、撮影者がレベルの決定を担当している。

以上、巡回健診における読影レポート記載の一例を示した。このシステムでもそうだが、医師読影時に撮影者が立ち会う場合に比べると、立ち会えない、立ち会わないといった場合には、医師との信頼関係が損なわれやすいので、この点に留意していただきたい。要精密検査とするかどうか最終的には読影医の判断に任されているので、読影医の納得が得られるよう、コミュニケーションを怠らないことが慣用である。そのためにも施設症例の見直しには、医師と一緒に検討することが必要であると思う。チーム医療を忘れずに精度向上に取り組んでいただきたい。

執筆協力
大阪消化管撮影技術研究会
サトウ病院 井上啓二
みどり健康管理センター 板谷充子
藤田胃腸科病院 本田幹雄
埼玉県立がんセンター 腰塚慎二
四日市健診クリニック 西川孝
札幌厚生病院 萩原武
社会保険北海道健康管理センター 杉沢猛
社会保険北海道健康管理センター 加藤沙織
(敬称略)

参考文献
1)市川平三郎,吉田裕司.胃X線診断の考え方と進め方.東京:医学書院;1986.
2)本田幹雄.陥凹性病変の読影.消化管撮影技術 2002;25:40-43.
3)楢原義夫.「船員保険会健診業務一元化システム」を利用した医用画像管理システム.MEDIX 2004;39:36-39.