札幌ニューテクノロジー研究会 2月
「線維化」 社会保険北海道健康管理センター 加藤沙織
傷の治り方というのは、体のどの部分でも同じです。
スライドは傷が治るまでの過程を示しています。
この過程の中で、線維化・瘢痕化という時期があります。
今回はこの線維化・瘢痕化とは何かを理解していただくことを目的としています。
治癒過程にそって、見ていきましょう。
体に傷ができました。
傷を修復しようと、まず炎症がおこります。
そして、傷の周りの組織から必要なもの(白血球や細胞など)が産生されます。その産生されたもので傷が覆われます。また、毛細血管が豊富に構築されます。このように新しく作られた組織を肉芽と呼んでいます。


肉芽の中にある細胞で重要なのが線維芽細胞です。この細胞がコラーゲン線維を作ります。
コラーゲン線維は、細胞と細胞・組織と組織の隙間を埋めて、それらを結びつける線維のことです。

図のような形をしています。
ということで、時間が経過するにつれて、コラーゲン線維が生産・増加されます。
そして最終的に、肉芽がコラーゲン線維に置き換わります。この現象を線維化といいます。
線維化が起こっているときに、もう一つ現象がおこっています。それは上皮の再生です。
潰瘍の端の正常細胞から新しい細胞が作られて、上皮を形成します。
また、潰瘍部分の収縮も始まります。
上皮の再生が進み、表面が全て再生上皮で被われました。
細くてバラバラだったコラーゲンは、融解し、新たに太くて短い丈夫なコラーゲンが規則的な方向で再構築され均質化していきます。
また、細くてもろい毛細血管も壊され、数が少なくなります。
そして組織が締まって丈夫になっていきます。
このようにして線維化された、治癒後の組織を瘢痕組織といいます。
一連の流れを見直してみましょう。

私たちが普段、粘膜の表面をみて胃潰瘍や胃潰瘍瘢痕と診断している時、その粘膜下では、このような現象が起こっているのですね。線維化・瘢痕化について理解していただけたでしょうか。
最後に、今度は癌のお話を少ししたいと思います。
まず瘢痕癌とは、再生上皮から出来た癌のことです。
再生上皮に、図のように癌が出来たとすれば、周囲との境界も分かりやすく、見つけやすいと思われます。
しかし、そこに潰瘍が出来てしまうと、癌の部分が削り取られて、はじっこにチョコッと癌が残ります。
その潰瘍が治癒すると、正常な再生粘膜が出来ます。ということは、以前出来た潰瘍と、今回出来た潰瘍の隙間に、癌が残るというわけです。

これを見逃さないように、気をつけなければいけません。
潰瘍瘢痕を見つけたときには、再生上皮と集まった粘膜ひだの間に溝(断絶)がないか、辺縁を注意しながら検査・読影をするよう心がける事が大切だといえます。

ちなみにスライドは良性潰瘍瘢痕です。
瘢痕癌との鑑別が必要と思われる症例です。