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 平成21年 3月
  「巡回検診における当施設のレポート記載法の紹介と問題点の検討」
                  社会保険北海道健康管理センター 高橋伸之
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はじめに
レポート作成については、各施設の事情により、最適な形式は同一ではないと思われる。現状にあったレポートシステムを確立している施設は、それでよいと考えるが、現在レポート作成に苦慮されている方に、今回掲載した内容を参考としていただければ幸いである。

概要
巡回検診におけるレポートは、外来検診と比較して、時間の制約が極めて厳しい環境のもとで行わなければならない。しかし、検診の目的が救命可能がんの拾い上げという点では、外来検診と同じである。以上の点から、外来検診のレポートと基本的な着目点は同一でありながら、巡回検診では、極力簡潔であることが要求される。この点を踏まえて当施設ではレポート作成を行っているので、紹介したい。 

<施設の巡回検診成績(平成18年度)>
 胃X線検査受診者数       17,629名(約90%職域)
 胃X線検査要精検判定数    986件
 胃X線検査要精検率       5.59%
 胃X線精検受診者数       413名
 胃X線検査精検受診率     41.9%
 発見癌数              17件
 胃癌発見率             0.096%
 早期癌割合             58.8%
 書き方
 考慮している点
1.1日に撮影する件数が多い(一人一人のレポートに手をかけられない)ことに対応でき
  るようにする
2.医師の読影時、一度に200件以上の読影をする  = 伝えたい内容が短時間で理解し
  てもらえるようにする
3.最大の命題は救命可能癌の拾い上げ
4.施設・各技師に偏り(見落とし傾向)がないか検討が重要 = 統計処理を簡便に行える  ようにする
5.保存/管理が容易であること
 以上を踏まえた当施設巡回レポートのポイント
1.短時間(10秒)にて記載可能である
2.部位を表す
3.良悪性の判断が盛り込まれている
4.シェーマの代わりに追加撮影で明確にする
5.日報用紙を使用する
6.内容は第三者が一見で理解できること
 レポートの一例
 
   (部分拡大)
危険群の設定とその意義

レポートの中に記載されている数値は、癌をどれくらい疑っているかの指標である。救命可能がんの拾い上げを第一の目的にしている以上、レポートは、そのことを明確に伝える内容が盛り込まれなければならない。また、撮影者にとって、レポート記載の義務がある以上、撮影中に異常所見に気付いた場合、危険度設定する上で根拠となる所見を拾う意識が高まり、それを判断できる画像を自ずと求めることに繋がる。
危険群の選別(レベル3及びレベル4を危険群として扱う) 
 レベルの設定

レベル0 悪性を疑わない
レベル1 悪性も否定し得ないが、良性と考える
レベル2 良悪性の判断がつかない
レベル3 悪性を強く疑う
レベル4 X線写真上、悪性と判断する
 運用方法
1.日報用紙の中にレポート欄を設ける。
2.日報用紙は複写式。一部は健診車内に保管。一部は持ち帰りファイルに閉じる。
3.医師読影には、当番技師が2名立ち会う。
4.1名がレポート読み上げ。1名が読影結果記載。その他に、受診者情報読み上げ
  事務員1名。
5.医師が、要精密検査と判断したものに対し、読影用紙にレベルも併せて記載。
6.危険群は、即日または翌日、保健師へ連絡 
 
           読影風景
記載例 
   
  
                読影用紙  
 読影用紙中にあるLはレベルの略である。  
 危険群(レベル3,4)の精検追跡活動
1.放射線技師よりケース連絡を受けて保健師がフォロー開始
2.巡回は、本人に直接連絡をとって、スムーズに受診できるよう相談に応じる
 (キーフィルムを提供。精検受診時、持参していただく)
3.3ヶ月後に精検受診の有無・結果をチェック。未受診者には更に受診勧奨。
4.家族に連絡を取り、受診勧奨を依頼する

 上記の精密検査受診勧奨により、精密検査受診率は、40%程度(通常の場合)から90%程度へ飛躍的に向上している。

効果
平成5年度、危険群設定を開始したが、それが精度向上に繋がっているか検討した。

左上のグラフは、レベル毎から発見された癌の割合である。導入当初の平成5年度は、癌を疑わないと判断
したレベル0からも癌が発見されている。平成12年度においては、レベル3.4の危険群からの発見癌割合が
65%と増加し、危険群設定の妥当性が向上していると思われる。

レベルの分布

一方、右上のグラフは、レベル設定の全体割合であるが、危険群に関しては、いずれの年度でも全体の2~
3%であり、闇雲に危険群を増やしていないことがわかり、危険群設定の妥当性つまりは良悪性の鑑別に関
する判断力の向上を裏付ける結果が表れている。 

 それでは、この結果が、癌発見率や早期癌割合に結びついているのかどうか検討を試みた。左上の表は、
癌発見率である。数値の変動が激しく、評価しにくいが相関関係の計算式を用いると、「相関している」という
評価になる。右上の表は早期癌割合を表しているが、こちらは「強く相関している」という評価となった。以上
の結果より、当施設の取り組みは、精度向上に繋がっていると判断している。
 
 問題点  
   
 上の2つの表は、平成12年度以降のデータを追加したものである。先ず平成15年度を注目していただきたい
。左上の表より、平成15年度では、平成12年度の成績を更に上回り、発見癌の80%を危険群が占めている。
右上の表を見ると、平成15年度、全体の中で危険群が占める割合は7%となり、他の年度より突出している。
危険群割合が高くなったことは、当てずっぽうに危険群にしているとの見方も捨てられないが、癌発見割合が
特に高まっていることから、積極的に癌を拾いあげようという意気込みが感じられる。更に平成18年度を注目
すると、危険群発見割合は、著しく低下し、平成12年度よりも低率である。一方、全体を占める割合は4%とな
り、以前の割合に近づいている。これらのデータを分析してみたい。 
     平成15年~平成18年度の集計(施設外来・巡回)
   L3,4を
つけた数
 L3,4の
発見癌
早期癌
(m癌)  
 進行癌 L3,4以外の癌
 A技師  105 26  18(9) 
 B技師 70  15  10(6) 
 C技師 54  10  3(1) 
 D技師 41  14  4(2)  10  11 
 E技師 18  1(1) 
 F技師 22  3(1) 
 G技師 33  5(2) 
 H技師 48  5(4) 
平成15年~平成18年度の集計(施設外来・巡回)      
   早期癌割合(%)   陽性反応的中度(%)  早期癌反応的中度(%) L3,4拾い上げ割合(%) 
A技師   69.2 29.5  17.2  83.9 
B技師 66.7  28.6  14.3  75.0 
C技師 30.0  27.7  5.6  66.7 
D技師 28.6  61.0  9.8  56.0 
E技師 14.3  66.7  5.6  58.3 
F技師  25.0  45.5  13.6  60.0 
G技師 83.3  36.4  15.2  50.0 
H技師 55.6  29.2  10.4  64.3 

上の表は、平成15年度から平成18年度まで当施設に在籍していた技師の比較であるが、外来検診及び巡回検診の合計である。上の二つの表から、それぞれの技師の特徴を探る。

先ずA技師は、レベル3,4と判断した数が一番多いが、その分発見癌数も多い。また、その発見癌のうち早期癌の割合が高く、更にm癌の割合も高いことがわかる。B技師も同様の傾向である。

一方、E技師を注目すると、レベル3,4をつけた数18件に対し、発見癌は7件と的中率は最も高い。しかし、そのほとんどが進行癌であり、早期癌割合は、最も低い。ここから推測すると、E技師は、進行癌になるほど大きくならなければ、悪性と判断できないと思われる。つまり、良悪性の根拠となる所見を理解できす、大きく派手な病変に対し、レベルを高く設定していることが伺える。この傾向は、E技師ほど顕著でないが、D技師にも似た傾向が見られる。

興味深いところでは、G技師がある。レベル3,4から拾い上げた癌のうち早期癌の割合が最も高い。だが、その反面、レベル3.4から拾い上げた癌の割合が50%ちょうどである。G技師は、この8名の技師の中で、最も経験年数が低いが日頃熱心に勉強している。そこから推測するところは、得意としている癌の特徴と、経験が浅いために不得意としている癌の特徴があるのではないか。そのため、得意とするものは、小さくとも悪性と判断し、レベルを高く設定する。一方、不得意なものは、大きくとも良悪性の鑑別ができないのではないか。

以上のように、個々の技師の特徴を推測した。この中で、A技師は、平成15年度には他の技師と同程度巡回検診を担当していたが、平成18年度ころには、巡回検診を担当する機会が、かなり減少している。また、その代りに新しく加わった2名の技師がその分、巡回を担当している。このA技師と新人技師の入れ替わりが、先ほど注目した数値の変動の要因ではないかと推測する。

 以上より、問題点を以下に示す。
  1.新人を含めると、システム評価に影響を及ぼす。

2.このシステムだけに頼るのは、限界がある。

(技能向上には、意欲その他様々な要因から、個人差が大きい)

3.画像評価が、できない。

 (写真の画質。描出能など)

 当施設では、画質に関しては医師読影時に確認

1.     改善策の検討

これら改善のために、以下の提案をする。

1. 新人教育のためには、施設内において、所見を拾う修練と良悪性の鑑別ができるよう読影力を養う勉強が必要である。

2.     更に個人差を小さくするためには、各所見から妥当なレベルを導き出すことが可能な手引きが必要である。


手引き例:
・隆起の大きさ 
      05mmは   レベル0
      510mmは レベル01
      1020mmは辺縁平滑 レベル01
               辺縁不整 レベル23
             変化あり レベル23
      20mm以上は変化なしで平滑 レベル01
               初回平滑 レベル1
               辺縁不整 レベル34
               変化あり レベル34

 3. 画像評価を加えることは大変重要である。
  参考となる方式として、石本式(※
1)・吉田式(※2)・中原式(※3
  を推薦する。
 

(※1)鹿児島 南風病院

(※2)早期胃癌検診協会中央診療所

(※3)久留米大学

  おわりに

きびしい環境下である巡回検診において、当施設のレポート記載法は、大いに適応していると考えている。しかし、このシステムだけに頼るのでは、大きな成果は上げられない。サポートとして、施設内教育システムを充実させる必要があると考える。