前壁早期胃癌拾い上げの検討 第2報

            -頭低位腹臥位二重造影像以外の描出能の検証-

                      社会保険北海道健康管理センター 加藤沙織 


〔はじめに〕

「新・胃X撮影法ガイドライン」(日本消化器がん検診学会)で定義されている撮影体位の中で、受診者にとって最も辛い体位は、頭低位腹臥位二重造影像(フトン使用)である。体部から前庭部の前壁病変を拾い上げるためには必要な撮影方法であるが、胃型によっては目的部位が十分に描出されず見逃されるケースも存在する。そこで、“撮影時における受診者負担の軽減”と“頭低位腹臥位二重造影像における目的部位の描出不良を補うこと”を目的に、頭低位腹臥位二重造影像以外の撮影像(圧迫像・接線像・写しこみ像)による前壁がん病変の拾いあげについて検討を行った。第1報、第2報について合わせて報告する。

〔調査期間〕

H16年4月からH20年3月までの4年間。

〔造影剤〕

施設検診・巡回検診ともに、バリトゲンHD210w/v%を使用し、直接撮影では150ml、間接撮影では120mlを飲用している。

〔発泡剤〕

施設検診ではバリトゲン発泡顆粒5gを2倍に薄めたバリウム(100w/v%)にて飲用している。

巡回検診では、バルギン発泡顆粒5gを同様に薄めたバリウムにて飲用している。

〔使用機器〕

施設検診では、I.I.DR装置を4台、FPD装置を1台使用している。巡回検診では、DR装置搭載車3台を対象とした。(詳細をFig.1に示す)

 
                      ( Fig.1) 当時
 
〔第1報〕病変の拾い上げについての検討

〔目的・対象〕

検討対象は、前壁早期胃癌22症例である。

前壁早期胃癌を、圧迫像・接線像・写しこみ像により、どの程度拾い上げることが可能か検討を行った。(Fig.2

 
                  (Fig.2)
〔検討方法〕

全症例について、項目ごとに、病変を拾い上げられた症例(可)と拾い上げられなかった症例(不可)の数を調べ、割合で表した。結果を以下にグラフとして提示する。(Fig.3 ,4)

〔結果〕

   
    (Fig.3)病変の拾い上げが可能な割合  Fig.4)全体の割合

各項目のうち、写しこみ像が、病変の拾い上げに1番有効であった。圧迫像・接線像・写しこみ像のいずれかの方法にて拾い上げることが出来たのは、22症例中15症例であり、全体の68%であった。

〔第2報〕良悪性の鑑別についての検討

〔目的・対象〕

 圧迫像・接線像・写しこみ像のいずれかにて拾い上げられた前壁早期胃癌15症 例(第1報の結果より)を、どの程度悪性と認識できるか検討した。

〔検討方法〕

対象を、レベル(悪性を疑う指数)によって分類した。今回用いたレベルは、当施設独自のものである。(Fig.5 参照) 通常は技師がレベルつけを行っているが、今回の検討においては、消化管でご活躍されている4名の医師にお願いした。

 
          ( Fig.)
 
〔判定基準〕


4名中3名以上の医師がレベル3(悪性を強く疑う)、またはレベル4(悪性と判断する)とした症例を、悪性と認識できる症例と定義した。(Fig.6,7)

〔結果〕

   
       (Fig.)悪性と認識できた  (Fig.)全体の割合
〔考察〕 
   
  Fig. 3病変の拾い上げが可能な割合
              (第1報より)
  Fig.6悪性と認識できた割合
       (第2報より)
 
1.圧迫像

病変を拾い上げられた9症例中7症例(78%)を悪性と認識できた。

当施設の圧迫は、2重造影を主体としたルーチン検査の最後に行われるため、圧迫撮影時に圧迫に不適切な空気量・バリウム量となり、100%の効果は期待できないと考えている。そのため、病変の拾い上げの検討(第1報)では、圧迫像は検討対象として不適切であったとした。しかし今回の検討結果より、同様の条件でも技師が病変に気がついた上で念入りに圧迫を行えば、頭低位二重造影以外では、圧迫が良悪性の鑑別に最も効果的という結果になった。1例を提示する(Fig.8,9

10276916RF0002  10276916RF0016 
   (Fig.)       (Fig.) 
 2.接線像

接線像では積極的に癌を疑うことが出来なかった。

側面変形や辺縁のひきつれ等の所見で病変を疑った場合、病変を面で捕らえることが必要であると考えられた。病変の拾い上げは可能であったが、悪性と認識できなかった1例を提示する。(Fig.1011

 10340708XA0006  10340708XA0011
      (Fig.10)      (Fig.11) 
 3.写しこみ像

写しこみ像では2症例(18%)しか悪性と認識できなかった。

認識できなかった症例のうち、隆起性の病変は、顆粒の不揃いさがあまり認められなかったため、癌を疑うのが難しかった。また陥凹性病変は、辺縁の不整を指摘することが困難であった。要因として、今回の検討対象が早期癌であり、なおかつ分化型の癌が80%を占めていることが考えられた。悪性と認識できた2症例を提示する(Fig.1213) 

 10117281XA0006  10066172RF0003
      (Fig.12)         (Fig.13)
〔まとめ〕

当施設では、悪性の病変を疑われる受診者に手厚い受診勧奨を行っている。そのため、病変を拾い上げるだけでなく、良悪性の鑑別が出来る写真を撮影することが望まれる。第2報では、前壁早期胃癌の圧迫像、接線像、写しこみ像で良悪性の鑑別が可能か検討を行った。その結果、15症例中8例を悪性と判断できた。しかし、効果的な圧迫がなければ良悪性の鑑別は困難であると考えられた。悪性と認識できる写真を撮影するためには、頭低位腹臥位二重造影像で悪性所見を描出するか、病変を認識した上で圧迫を行う必要があるという結果となった。 

〔結語〕

第1報、2報を通して、

○ 頭低位腹臥位二重造影像が必要であることを再認識する結果となった。

○ “体の不自由な方”や“ご高齢で逆傾に耐えられない方”など、どうしても前壁撮影が困難と考えられる場合に、病変拾い上げの補助的な手段として用いるのに有効であると考えられた。

〔謝辞〕

ご協力いただいた先生がた

 
 ご指導・ご鞭撻、ありがとうございました。