ニューテクノロジー研究会 2004年5月
                   「発泡剤」 
           社会保険北海道健康管理センター 加藤沙織

普段、あまり注目されない脇役の発泡剤。
しかし実はとても大事であるということで、その道の先生方に教えてもらいました。

堀井薬品 雨宮先生   伏見製薬 竹内先生  共成製薬 山本先生

【発泡剤の特性】
〔反応式〕
    2NaHCO3  +   C4H4O6  →   Na2C4H4O6   +  2Co2  + 2H2O
     重曹    +   酒石酸  → 酒石酸ナトリウム + 炭酸ガス +  水
(炭酸水素ナトリウム)

「重曹と酒石酸を化学反応させることによって、炭酸ガスを発生させます。
重曹・酒石酸は水に溶けやすいため、少量の水で化学反応を起すことが出来ます。」

〔ガス発生反応の因子〕→重曹・酒石酸この2つの成分の溶解を左右する因子

@溶媒・・・(例;水、バリウム)
  
液性 (100%純水であれば発泡剤が解けやすいが、何か混ざると解けにくくなる。
                                   →ガス発生反応がしにくくなる) 
 量  (多量の水で反応させたほうが、反応はスムーズに行われる。
     水の量の違いは、“どこの発泡剤を使うのか”
                 “その発泡剤をどのタイミングで発泡させたらいいか”
                 “胃の中のバリウム濃度”
     など色々な所に影響を与え、極端な反応の変化をもたらす。)
 温度(高いほうが解けやすい)
 粘度(低粘性の溶媒は、溶質を取り巻く溶媒がスムーズに移動するため次々と反応を
     起こすが、高粘性だと移動しにくいため時間がかかる)
  *消泡液を入れることで、発泡曲線が大きく変わる。
             →使い方によっては発泡をコントロールできる因子となる。
  
@製剤(重曹・酒石酸)の性質
通常発泡剤は、重曹・酒石酸の粉を混ぜた状態で製剤化されている。
  固さ(溶媒に、早くふやけてくれる顆粒→反応が早い。ある程度の固さで作っている)
  粒子の大きさ(単位当りの表面積が小さな顆粒ほど溶けやすい。
                      どのくらいの大きさにするのかが大切)
 
〔保管〕
重曹は湿った空気中で徐々に加水分解するため、発泡剤自身も少量の水で劣化を開始する。よって、外からの湿気を遮断するのが大事である。乾燥剤を封入した容器の中に入れ、製剤自身が持っている水の水分をしっかり捕獲。すると3年は大丈夫である。

〔発泡剤と胃液酸度〕
胃内pHが3~4ぐらいになるとバリウムに与える酸性の影響が0に近くなり、バリウムにとっては居心地が良くなる。発泡剤を飲むこと(化学反応の副産物である酒石酸ソーダの影響)で、胃中pHは4まで上がるため、堀井薬品では、発泡剤を飲んでバリウムを飲む方法を薦めている。

発泡剤添加量 0g 1g 2g 3g 4g 5g
pH 1.18 3.26 3.86 4.05 4.21 4.27

〔発泡速度について〕
☆発泡速度に影響を与える因子
○服用順序 何で飲むか
  発泡顆粒(水)→バリウム
  バリウム→発泡顆粒(水)
  発泡顆粒+バリウム(同時服用)
○服用液量(水)
○服用液の物性(液温,液粘度)
○バリウム製剤の種類(同時服用の場合)

発泡時間 早くなる 遅くなる
水量 多い 少ない
温度
(バリウムにて服用)
高い 低い
粘度 低い 高い
濃度 低い 高い
バリウムの種類 製剤により発泡速度が異なる


「用水量による発泡速度の変化」 「液温よる発泡速度の変化
(水の場合)」

「バリウム液による発泡速度の遅延」

「液温による発泡速度の変化
(バリウムの場合)」

【Baで発泡剤を飲むということ】

メリット
・胃の中でのバリウム濃度が低下しない
・発泡速度が遅くなる→ゆっくりと胃が膨らめば受診者の負担が軽減される。
・服用の容易さ(沢山のバリウムで飲むことで飲みやすくなる)、苦痛が少ない

デメリット
・気泡の残留   →読影に影響がある場合も
・検査時間の増加(胃が膨らむのに時間がかかるため)

【紅茶を用いた飲用方法について】 注:この項については追加報告があります。(削除済み)
☆発泡剤飲用時、紅茶を使用した場合の発泡時間
・水より紅茶のほうが発泡時間が遅い為、受診者が楽なのではないか?と考えられる。
・写真的には水で飲用した時と変わらない。
・問題はお金がかかること。

【各社共通事項】
  重要な基本的注意!!
消化管内圧の上昇により、一過性の血圧低下が発症することが報告されているので投与に際しては(十分に注意すること。)
前兆:顔面蒼白、めまい感、眼前暗黒感、悪心、四肢脱力感、意識障害、失神
対応:短時間臥位にして休ませる・・・早期に回復
作用そのものより、むしろ「倒れて頭を打つ」とか「透視台からの落下」など二次的な怪我(障害)に注意が必要!
交感神経が高ぶっている人(緊張している人)・高齢者はハイリスクグループである。
とにかくリラックスさせ、我慢させないことが大切である。

*発泡剤の使用量が増えてきている。胃の中でしきりに発泡するので、交感神経に影響を及ぼし、一過性の血圧低下を招く。副作用は1,2分で良くなるので問題ないが、2次災害が問題である。そのため、最近は発泡を緩やかにしている。Baで飲むなどの工夫をして欲しい。


発泡剤Q&A
Q. 受診者の負担軽減やバリウム濃度を下げないという目的で、バリウムで発泡剤を飲む方法を検討している施設が増えているが、気泡が消えない等により、良好な結果が出ない。バリウムで飲用するのに適した気泡が素早く消えるような発泡剤の研究を進めて欲しい。
A.1. バリウム濃度を下げないということについては、現在の低粘性バリウムであれば、かなり飲みやすくなっている。発泡剤と一緒に飲用する水の分を計算し、あらかじめその分バリウム濃度を高めに設定して作るというのも一案だと思う。そうすれば、多くの健診施設で行なわれているバリウム濃度が下がるのを危惧して、少量の水で発泡剤を飲むというやり方よりは楽な飲み方になると思う。バリウムと一緒に飲んだ際の気泡の問題も無くなる。(A社)
2. 発泡時期を早めることは、いろいろ研究しているので、ニーズに答えられる発泡剤はできると思う。ただ、それが気泡を素早く消すということに繋がるとは限らない。検討する。(A社)
3. 今回、実際に写真性が向上している例を拝見し、意欲が湧いた。前向きに検討しようと思う。(B・C社)
 
Q. 資料では、水の温度を高ければ発泡時間が速くなるということだが、温度を高めにし、その分、水量を減らすという考えは実用的にはどうだろうか
A. あくまで実験結果の数値で、実用効果はかなり疑問。
 
Q. バリウムで飲ませたときと水で飲ませたときとでは、出てくる泡の質に違いはあるのか
A. バリウムで飲ませたときは、比較的粘り気の多い泡(消えにくい泡)になる。
 
Q. 消泡液を使用している施設が減っていると思うが、見解を聞かせて欲しい
A. 現在、高濃度バリウムを使用している施設が増えている。コスト削減ということが背景にあると思うが、このバリウムは、添加剤を極力抑えて低粘性にしている。また、消泡成分も多少含まれているものもある。そのため、泡がはじけ易く消泡液をそれほど必要と感じないということだと理解している。